閉塞感に満ちた社会に「問い」を。2021の変化に心を澄ます。 アーティスト 藤元明・建築家 永山祐子

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一瞬、心が動く。

言葉にも現れないくらい刹那的で、日々忘れてしまう小さな心の動きを、意図的にすくい上げてみる。アーティストが生み出す作品には、そんなキッカケが隠されているのかもしれない。そう感じた今回は、私たちが感じる小さな心の動きを”生み出す側”のお2人にお話を伺った。

昨年2018年10月19日(金)〜28日(日)の10日間、表参道・渋谷・原宿・六本木など東京の主要エリアを舞台に開催された、デザイン&アートのフェスティバル『DESIGNART TOKYO 2018』(デザイナート トーキョー 2018)。約90会場、のべ12万人が訪れたこの巨大なアートイベントのその年の顔「DESIGNART Feature」には、アーティスト 藤元明(ふじもと・あきら)さん、建築家 永山祐子(ながやま・ゆうこ)さんが起用され、初の大型コラボレーション「2021#Tokyo Scope」が南青山のエイベックスビルに展示された。

「2021#Tokyo Scope」photo by OMOTE Nobutada
「2021#Tokyo Scope」photo by Nacása & Partners

アートと建築の視点から『2021#Tokyo Scope』を作り上げた経緯と狙い、また現代に生きる私たちと『アート』のより近い接点を探った。心の波紋の”起点”となりうる『アート』に込められたメッセージ。受け取る感度を高めたり、心を柔らかくすることで、自分たちが見る世界が少しだけ、変わるかもしれない。

時間と都市『2021 #Tokyo Scope』のもつ2つの問いかけ

——『2021 #Tokyo Scope』は、藤元さんが2016年より主催するアートプロジェクト『2021』に、永山さんが建築的な視点を加えて表現した作品と伺いました。共創するにあたり、どのような経緯があったのでしょうか?

藤元さん(以下、藤元)『2021』は、2020年東京オリンピックの翌年を表す数字で、国家を挙げての巨大な祭りのあとに「東京はどうなっているんだろう」と、私たちのすぐ近くまでやってきている未来について考えることが、このプロジェクトの目的です。DESIGNARTの発起人である青木昭夫さんが、2018年はよりアートに力点を置きたいというリクエストがあったことと、『2021』のコンセプトに彼が共感してくれていたので、展示する作品は迷わず決まりました。そこに永山が建築家として携わり、都市に考え方を拡張するというコンセプトを物理的にデザインしていきました。

永山さん(以下、永山)藤元の『2021』が西暦を表す時間的なスコープのなかにあるという中で、DESIGNART TOKYO 2018そのものには青山界隈という場所性がありました。私の役割としては、『建築』という場をもつ分野に関わっているということもあって、都市との関わりとか、都市的なスケールにもう一度置き換えた時に、時間軸の他に都市という空間の中に何か新しい2021という起点を示せるのではないかと考えました。

藤元『2021』を構築していく上で、1964年の東京オリンピックや東京の高度成長などを学びました。岡本太郎の『僕らの都市計画(いこい島)』や、丹下健三『東京計画1960』*1、1996年『世界都市博』の計画と挫折、なんといっても僕たち世代は漫画『AKIRA』で描かれる東京オリンピックなど、それぞれの時代で描く東京の未来がありました。

*1「東京計画1960」:多くの国家プロジェクトを手がけた建築家 丹下健三による、皇居から木更津まで東京湾を横断する大きな軸線上に作る水上都市の゙提案

永山1960と軸が少し重なるんです。エイベックスのアトリウムはちょうど、明治神宮や1964年東京オリンピック遺構、新国立競技場といったヘリテッジゾーンをもつ北西側と、六本木ヒルズやこれから大きく変化する豊洲のベイゾーンをもつ南東側、その2つのエリアを串刺すように軸性を意識して作られています。この場所が持つコンテクストからも割とピッタリ都市軸というコンセプトにハマったんです。おそらく、現代は1人の建築家が都市計画的な提案をすることがすごく少なくなっていて、丹下健三のようにいきなり軸線を引くなどといった大それた提案はその後あまりされていません。主にディベロッパーが様々なエリアの開発をしていますが、都市全体を見直す提案というものが実は少し抜けている気がしています。だからあえて、こういう軸を自分たちの論理で作ってみるというのもひとつの『アート』ならではかと思いました。

——自分たちの論理で作る。『アート』とはどのようなものだと捉えていますか。

藤元僕はアートは『問い』だと思っていて。「解答はデザイン、問いはアート」とは簡単に言えないけれど、一元的ではない『問い』の精度をアートは求められていると思います。

例えば、僕が今取り組んでいる『核抑止』という作品テーマは、核兵器で抑止しあう構図についての『問い』で、これに1つの答えはないんですよね。一般的に過去の価値観である核兵器は廃絶したい。しかし、仮に全ての核兵器を排除したら、今の世界の均衡を保つかという代替案はない。そういった「確かにやばいよね」っていう話はいっぱいあって、世の中にきっとなくならない。そういうことに、「俺らは向き合わないの?」という『問い』を投げかけることがアートだと思っています。『アート』をもっとより鋭く伝えていくように『デザイン』をする。最後のコミュニケーションで必ずデザインが必要になります。

アートの力強さに耐えうる安全性をデザインに頼る

——初めてのコラボレーションということで、どんなことに苦労されましたか?

永山そうですね、実務上の苦労はありましたね。予算の都合から中国に直接バルーンを買い付けに行ったり、場所の制約が厳しいところだったので、消防に説明しに行ったり……。建築だと安全面をどう確保するかということで、大真面目に構造計算をした上で力の配分を考えたりと安全の考え方がアートと建築って全然違うんですよね。彼は感覚でできるんじゃないっていうけれど、私は安全安全になってくので、その辺の落とし所を探していました。このぐらいだったら大丈夫かなと思うものでも、構造解析しないとやはりちょっと落ち着かなくて(笑)

——『問い』にインパクトを与えつつ、それをいかに実現にできるかが力の見せ所ですね。

藤元友人の伊勢谷友介*2と学生の頃から言っていたのは、誰もやってないことをやって、世の中に当てはめるカテゴリのワードがない場合において『アート』だということでした。『問い』の考え方が優れている人はすごくたくさんいるから、それをリアライズ、つまり具体的にアクションに落とせるかどうかが、僕と友介のものさしになっていました。だからDESIGNART TOKYOだけでなく、「俺らがやるしかないんだよ」とずっと言っていて。誰かが手をあげ続けて、否定されながらも、なんとか周りを盛り上げる。「アーティストがやらなきゃ誰がやるんだ」と。それは根拠じゃない。根拠とか関係ないから。そうやって僕はずっと非現実的なことを言い続ける。彼女は人の命がかかっているものを扱う建築家として現実的に進める。そういう意味では、まさに今回の作品はアートとデザインの両サイドから進めて作り上げました。

*2 藤元明さんと伊勢谷友介さんは東京藝術大学在学中からの友人。

オーディエンスからプレイヤーとしての新しい価値基準

——答えがないということは、受け手側の解釈や行動を促すキッカケとなるもの。しかしアーティストのメッセージを全てちゃんとキャッチできるかな?という懸念もあります。

藤元やはり考え始めるきっかけですよね。全員が全員できるわけではないし、僕自身もわからないですよ。でも、誰にも全く伝わらないんだとしたら、その作品は果たして優れているのかどうかという問題でもあります。

だからこそ『問い』を受け取るために、現物を実際に見てもらいたいと思っていて。僕らはいつも少ないメンバーでやっているんですが、現場が圧倒的に面白いんですよ。それを僕は映像でよく公開しているんですが、大笑いしながらやっている様子を、1/100でもおすそ分けしたい。僕たちの作品はゲリラでやってるので緊張感があるのですが、同じ体験をするのはその場にいる以外ないですからね。

2021#Kamogawa delta from Akira Fujimoto on Vimeo.

京都・鴨川での「2021」展示。強風でうまく設置できない状況を通りかかった高校生らが手伝うシーンを収めている。

永山「現物を見てもらいたい」というと建築はまさにそれで、建築家はその場所の文脈、歴史、周辺地域との関係性の中から建築を考えているので、その裏側のストーリーに思いを馳せてもらえるとより理解の幅が広がり、もしかしたら新しい気づきがあるかもしれません。ただ、建築に触れるときはあまり固定化した見方は必要なく、想い想いに感じてもらえればと思います。

藤元僕はよく、オーディエンスだと思わないで、それぞれがプレイヤー側になるように見に行ったり、携わればいいと言っています。これらの活動はお金は生まないけれど、お金を生まないがゆえの強さがある。全くもって自由。企業のサラリーマンって立場によってかなり制限があるじゃないですか。自分が組織から責任を預かっている立場だからそうなるのも当たり前ですよね。閉塞感から手も足も出なくて、とげを出したらすぐ怒られちゃう。そういう論理の中でやっていることと、アーティストが自己責任でやっていることはものさしが全然違います。デザインで企業のリクエストに答えるというのと、アーティストが勝手にやるというのでは、社会的インパクトで言ったらマスとしてはデザイナーだけど、内容で攻められるのはアーティスト。ただ、後者が求められている時代でもあるなとは思っています。

——自分がどうしたいかをしっかり持ってないと苦しい社会性のように感じます。

藤元僕が思うのは、みんな「安心したい」気持ちが本当に強いじゃないですか。さらにその幻想が大きすぎる。安心と安全は別で、安全というのは命の危険がないということ。安心というのは気持ちの問題で、それにすごいみんな惑わされているように思います。どこまでやれば安心するんだと。

生きているということは盤石じゃないから不測のことは起こります。こちらが悪くなくても、ある日自転車にぶつかられるんですよ、そういうものだと思って生きろと思うところもあって。それをもう、かすり傷ひとつつかないように生きたいと願う。怪我をするのが一切嫌。それを度がすぎて助長する社会だし広告が溢れています。対してアーティストは、ちょっとした勇気を振り絞って自分をさらけ出す。それをみんな少し賞賛したり「面白いね」と評価をする。はみ出している勇気と、それにセンスが求められている。

時代に重なるアート、2019年以降に起こりうる変化

——DESIGNART TOKYO 2018を経て、今後お2人で活動の予定はありますか?

永山今年の夏、8月1日〜10月27日に東京京橋にある戸田建設本社ビルで解体前の既存ビルを利用するアートプロジェクト「TOKYO 2021 -新しい過去から-」に関わってます。

戸田建設は都市再生特別地区として本社を建替えると共に、アートや芸術で京橋周辺のエリアマネジメントを積極的に行おうとしています。私がやっているミラノ座*3なども、同様にエリアマネジメントとして、アートや芸術などの文化的なコンテンツに取り組んでいます。そのように都市開発の中にアート文化事業が求められる場面が増えてきました。その一環で戸田建設の場合も大きな社屋の1Fの2区画を使って、建築と美術の展覧会を主にやりましょう、という話になりました。

*3 ミラノ座:新宿歌舞伎町「東急ミラノ座」跡地に2022年完成予定の超高層ビルのファサードデザインを永山さんが手がける。

建築展は中山英之さんをメインディレクターに、藤村龍至さんと一緒に東京藝術大学の建築准教授2人で、2021年以降の東京にまつわる『課題』の出題者になっていただきます。その『課題』を、同世代の建築家の方々や、学生、社会人の方々を交えて解答を提案いただくワークショップ型の展覧会です。現代美術展はカオス*ラウンジ*4の黒瀬陽平さんにキュレーションしていただくんですが、近代日本の災害や祝祭を通して、美術がどのようにリアクトしてきたかを紐解きながら、現代の作家・作品へと繋げていきます。2019年の8月-10月の3ヶ月くらいかけて色々展覧会を期間ごとに変えたりと、結構面白いアートプロジェクトになりそうです。

*4 カオス*ラウンジ:ネットを中心に活動するアーティストたちが集まる、カオス*ラウンジ。2008年にアーティストの藤城嘘が展覧会&ライブペイント企画として立ち上げたところからはじまり、 2010年から黒瀬陽平がキュレーターとして参加して以降、さまざまなプロジェクトを展開している。

——現代美術展や建築展のワークショップ型展覧会、屋台プロジェクトなど、来場者が参加もできるユニークな内容ですね。アートは今までも社会との接点を持ってきたのでしょうか。

藤元参加型のスタイルになってきたのは、ここ20年くらいだと思います。昔の宗教美術からルネッサンス、戦争があれば戦争美術など、美術は常に社会的権威と共生します。60〜70代の以降のポップアートや運動など、よりダイレクトに作品へ反映させています。1990年代の後半あたりからワークショップ型の作品が増え、体験の共有が美術の一側面として定着しました。1個のヒエラルキーが頂点の考え方があってそれを全員がフォローするというよりも、今はもっとふわっとしたボリュームで動いているというか、時代の群れっぽいというか。周りとの傷つけ合わない距離感で、都合のいい参加度合いというか……まさにSNSなんかそうだと思います。今はフォロワー数やアクセス数が多いということがもう10年くらい前から価値基準のひとつになっていますよね。ただ、人を集めるだけが目的にならないようにしないといけないと思っています。どうしても人が集まれば勝ちみたいになってしまうけれど、数よりも大切にするべき提案を問われていて、改めて次の時代の価値観へ繋げるべきタイミングだと思います。

2020にオリンピック、2025に大阪万博と、ある意味日本の社会を国内外にさらけ出す機会になります。祝祭を利用して都市や社会を変えようとするエネルギーが高まる時、便乗側も反発側も、こういう機会だからこそ「伝統と革新」や「グローバルスタンダード」などを超えた次の価値観で、日本の文化とは何かという「問い」に向かい合い、世界へ提案するべきではないでしょうか。

執筆:関口智子/撮影:林ユバ/編集:柿内奈緒美

藤元明

1975年東京生まれ。東京藝術大学大学院デザイン専攻修了。FABRICA(イタリア)に在籍後、東京藝術大学先端芸術表現科助手を経て、現在アーティストとして国内外で活動。人間では制御出来ない社会現象をモチーフとして、様々な表現手法で作品やプロジェクトを展開。主なプロジェクトに「2021」「NEW RECYCLE®」「ARITA Aura」「Fountain」など。都市の隙間を活用するアートプロジェクト「ソノ アイダ」を主催。https://vimeo.com/akirafujimoto

永山祐子

1975 年東京生まれ。1998 年昭和女子大学生活美学科卒業。1998~2002 年青木淳建築計画事務所勤務。2002 年永山祐子建築設計設立。主な仕事に、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「ANTEPRIMA」、「カヤバ珈琲」、「SISII」、「木 屋旅館」、「豊島横尾館」、「渋谷西武 AB 館5 F」小淵沢のホール「女神の森セント ラルガーデン」など。2020年ドバイ万博日本館に係る建築家に採択。新宿歌舞伎町「東急ミラノ座」跡地に2022年完成予定の超高層ビルのファサードデザインを手がける。 主な受賞に、2005 年ロレアル賞奨励賞色と科学と芸術賞 奨励賞「Kaleidoscope Real」、 2005 年 JCD デザイン賞奨励賞「ルイ・ヴィトン京都大丸」、2006 年 AR Awards(UK)優秀賞「丘のあるいえ」、2007 年ベスト デビュタント賞(MFU)建築部門受賞、 2012 年 ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard2012、2014 年 JIA 新人賞「豊島横尾館」、2017 年山梨県建築文化賞「女神の森セントラルガー デン」など。

「TOKYO 2021 -新しい過去から-」
会期 2019年8月1日(木)〜2019年10月27日(日)
時間 11:00〜20:00
会場 戸田建設本社ビル1階(siteA / siteB)
住所 東京都中央区京橋1-7-1
主催 TOKYO 2021実行委員会
建築ワークショップ型展覧会「課題(仮題)」
会期 2019年8月1日(木)〜2019年8月31日(土)
公開講評会 2019年8月24日(土)
時間 11:00〜20:00
会場 戸田建設本社ビル1階(siteA)
閲覧 無料
現代美術展「芸術のエンジニアたち -土木、祝祭、情報社会-(仮題)」
会期 2019年9月13日(金)〜2019年10月27日(日)(予定)
時間 11:00〜20:00
会場 戸田建設本社ビル1階(siteA / siteB)
閲覧 無料

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Tomoko Sekiguchi
Tomoko Sekiguchi
ライター
通信キャリアの営業部に勤めながら専門学校でグラフィックデザインを学び、その後広い意味のデザインを身につける為にクリエィティブエージェンシーへ転職。4年間ディレクターとしてプロジェクトマネジメントを経験し、現在フリーランスで表現者の発信をサポート。趣味は未経験で始めたジャズピアノ。