「分断」の先にあるものは?アーティストたちの挑戦  「六本木クロッシング2019展:つないでみる」

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表紙キャプション:飯川雄大《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》(2019)

森美術館が2004年から3年に1度ずつ、日本現代アートの最前線を定点観測的にレポートしている「六本木クロッシング」展の2019年版が開幕。6回目となる今年は「つないでみる」をテーマに掲げ、70〜80年代生まれを中心とした25組の日本のアーティストによる作品、総勢60点が六本木に集まりました。

 

開催に際し、南條史生館長は「分断化された社会、特に経済問題や自然災害・環境破壊、テクノロジーの進歩が社会にひとつの分断をもたらしているのではないか。アーティストがもつ『見えない関係を見抜く力』『新しい関係を築く力』によって分断と向き合うヒントを掴む展覧会」と位置づけました。

森美術館 南條史生 館長

 

テーマの「つないでみる」に応じ、セクションで展示を分断しないシームレスな構成になっています。セクションに代わって提示された3つのキーワードを、関連する作品とともにご紹介しましょう。

「テクノロジーをつかってみる」

技術革新の象徴ともいえるロボットやAIは、この数年でぐっと身近な存在になりました。ジュスティーヌ・エマールによる映像作品《ソウル・シフト》は、人工生命研究者・池上高志の研究室とロボット工学者・石黒浩の研究室による共同プロジェクト《機械人間オルタ》2体が、私たち人間には理解できない音声を発し合っている様子を捉えています。全身の鋼やケーブルが露わになっている一方で、まるで意思を持ち、互いの感情を汲み取っているかのような2体。生命とは何か、私たちは何をもって生命を認識しているのか、これからAIと共生していく上で避けられない課題を感じさせられます。

土井 樹+小川浩平+池上高志+石黒 浩×ジュスティーヌ・エマール
《機械人間オルタ》(2016-)
ジュスティーヌ・エマール 《ソウル・シフト》(2018)

 

デジタルとアナログ、仮想と現実はしばしば対極のものとして語られます。風景写真はその最たる例ではないでしょうか。池田亮司や大友良英らの作品に参加するなど活躍の場を広げる平川紀道の作品《datum》は、ある夕景の画像データを独自のアルゴリズムによって分解し、新たな映像世界を展開します。一見すると風景とはかけ離れたデジタルな粒子群ですが、途中で瞬間的に元の風景の断片が再現されると、デジタルデータというものとの距離がぐっと縮まる感覚があります。

平川紀道《datum》(2019)

 

「社会を観察してみる」

竹川宣彰によるインスタレーション《猫オリンピック》は、2020年に迫る東京オリンピックが題材です。1,300匹を超える猫が囲むスタジアムは超満員で、一見とても盛況でピースフルな場に見えます。しかしよく見ると、中には寝そべっている猫や中央を見ていない猫もいるわけで……私たちは1,300匹を総じて「オリンピック」として見てしまいますが、一匹一匹に目を向けることはなかなかできません。大きな動きの前で見落とされていることはないだろうか?と問いかけるような作品です。

竹川宣彰《猫オリンピック:開会式》(2019)

 

入って真っ先に度肝を抜く巨大な猫のオブジェ。飯川雄大の《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》です。ビビッドで愛らしい猫は思わず写真に収めたくなりますが、その大きさに対して設置されている空間はあまりにも狭く、どうカメラを向けても全体像を収めることはできません。何にでも無邪気にカメラを向けていた自分自身に気付き、立ち止まってしまいました。

飯川雄大《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》(2019)

 

「ふたつをつないでみる」

会場に突如現れる、金色の柱。柱に丁寧に巻かれた真鍮のチェーンに近づいてみると、ところどころチェーンが途切れてネックレスや指輪が繋ぎ込まれています。これは作者である磯谷博史の実の母、実の祖母が使っていたアクセサリー。脈々と受け継がれていく人間の生命や営みの一部を、この美術館を支える大きな柱に重ね合わせた作品です。この幾重にも巻かれたチェーンの先にはたくさんの人の営みが続いていて……と考えると気が遠くなる一方で、チェーンに繋がれたアクセサリーが壮大な物語にリアリティを伴わせます。

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仏教彫刻を学ぶうちに「美術と生活がかけ離れたもののように感じられた」という花岡伸宏の作品では、木彫りの像が畳の上に乗せられたり、花岡の家族の衣服が掛けられたりとさまざまな形で美術と生活を結ぶ試みがなされています。彫刻と生活品が共存する光景はシュールでどこかコミカルに感じられます。ただその一方で、誰のためのアートなのか、と根本を厳しく問い直す感覚もありました。あなたはどう感じるでしょうか?

花岡伸宏《未完の積み上げ》(2018)

 

彫刻と生活品が共存する光景。

 

さまざまな事物を「つないでみる」作品が並んだ今回の「六本木クロッシング」展。つなぐということは2つの個体が並ぶことではなく、2つの個体が融けて境目が曖昧になり、1つになるということなのかもしれません。これまで別のものとして認識していた事物がひとつになる感覚は新鮮で面白みがありつつも、既存の考え方を大きく揺るがす不安定さ、心もとなさにも襲われます。ワクワク感と緊張感の混じり合った、静かな高揚感とともに会場を後にしました。

 

キーワードの結びはいずれも「〜てみる」と言い切りを避けています。それはつないでみることがアーティストの、そして森美術館のチャレンジであり、それが正解とは限らないから。つないでみることで何が起きるのか、はたまた起きないのか。これまでになかった発想を具現化する、実験や挑戦の数々がこの展示に集まっています。解釈や感じ方はあなた次第。空間に入り込んでみたり、触れてみたり。

実際に体感することであなたも彼らの実験に加わってみてください。

 

執筆:吉澤瑠美 / 撮影:林ユバ / 編集:柿内奈緒美

 

森美術館15周年記念展
六本木クロッシング2019展:つないでみる
会期 2019.2.9(土)~ 5.26(日) 会期中無休
開館時間

10:00~22:00(最終入館 21:30)※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)

※ただし4月30日(火)は22:00まで(最終入館 21:30)※「六本木アートナイト2019」開催に伴い、5月25日(土)は翌朝6:00まで(最終入館 5:30)

会場 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
料金 一般  1,800円 学生(高校・大学生)1,200円 子供(4歳~中学生)600円 シニア(65歳以上)1,500円
公式サイト http://www.mori.art.museum

 

PHOTO GALLERY

山凡太郎《君之代 ―斉唱―》(2019)
目《景体》(2019)
津田道子《王様は他人を記録するが》(2019)
アンリアレイジ《A LIVE UN LIVE》(2019)フラッシュ撮影をすると花の部分が光る仕様になっている。
川久保ジョイ《アステリオンの迷宮 ―アステリオンは電気雄牛の夢をみるか?》(2019)研磨されたギャラリーの壁面。この壁は触れていいそうなので、是非触ってみてほしい。
Rumi Yoshizawa
Rumi Yoshizawa
ライター
1984年生まれ、千葉県香取市出身の末っ子長女。 千葉大学を卒業後、株式会社ロフトワーク、株式会社イールーを経て2018年1月より独立。執筆編集を看板に掲げ、インタビュー記事と文字校正を中心に取り組んでいる。人の話を聞くこと、字を書くことが好き。あだ名は「おちけん」。