「都会の真ん中でキャンプをする」ナインアワーズ 浅草

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2018年9月にオープンした「ナインアワーズ 浅草」は、スタイリッシュなビジュアルと洗練されたサービスが人気のカプセルホテルです。ナインアワーズは2009年京都に第1号店が登場して以降、着々とファンを増やし、今や全国に10店舗を数えるまでになりました。

1、2階にはノルウェー・オスロ発祥のカフェ「FUGLEN ASAKUSA」

 

カプセルホテルに「疲れの取れない窮屈な安宿」というイメージを持つのは昔の話。高度経済成長期の1979年に黒川紀章が提唱したカプセルホテルは寝・食・娯楽、生活の一切をカプセルに収めることをコンセプトとしていました。ナインアワーズは古い一日から新しい一日へのリセット=休息の時間にフォーカスしています。シャワーで汗を流す1時間、眠りにつく7時間、身支度をする1時間、ホテルに滞在するこの9時間をデザインすること。それが名前の由来につながっています。

年間5,000万人を超える観光都市に構えたナインアワーズ 浅草は、オープン半年にして毎日130〜170名ものゲストが訪れる盛況ぶり。その割合は6:4で海外からの観光客が多く、連日オンラインで世界中から予約が入ってくるといいます。食事やコミュニケーション、旅を楽しむアクティビティはすべて街に直接プラグイン。浅草という街に没入し、「都会の真ん中でキャンプをする」ような体験を生み出すナインアワーズ 浅草の魅力を探ってみました。

 

浅草という街に「没入」する

浅草のローカルな味が楽しめる”裏のメインストリート”・ホッピー通りの先に現れた地上9階建ての個性的なビルは、村野藤吾賞を受賞した建築家・平田晃久の手によるものです。内側と外側をゆるやかにつなぐ「からまりしろ」のある建築は、街にプラグインするナインアワーズのコンセプトとも合致。全国10店舗のうち浅草を含む4店舗(竹橋、赤坂、浅草、新大阪)を平田氏が手掛けています。

9階ともなるとその眺めは圧巻で、浅草寺や花やしきなど浅草の街並みを一望できます。最上階にはその眺望からラウンジを置くのがセオリーですが、「訪れる方にさまざまな視点から浅草を見てほしい」と、あえて最上階を受付に使っています。

9階でチェックインしたら、男性はそのまま9階で、女性は8階でシャワーを浴びます。シャワーの後は館内着とスリッパに着替えてあとは寝るだけ。共有スペースとして設けられているデスクやラウンジ、簡易的なジムはいずれもガラス張りで、それぞれ違った高さから街を眺める楽しみがあります。自然光と緑に包まれ光合成をするようなラウンジ「温室」は浅草独自のスペース。

単なるガラス張りのビルではなく、ところどころに屋根が巻き付いたようなデザインが特徴的です。浅草には新旧合わせて30以上の商店街があり、上から見下ろすと色も形もさまざまな屋根が連なっています。古いものも新しいものも混ざり合って共存するのが浅草の流儀。外観には街並みを切り取ったような11種類の屋根があしらわれています。「環境を顧みずギョッとしたものを作るのではなく、景観に溶け込みつつ新しく変化を還元していくものでありたい

右手前がナインアワーズの屋根。その先に続いてる浅草の街に馴染む。
他エリアのナインアワーズはモノトーンのシンプルなデザインが多いのですが、壁紙に落ち着きのある深い緑色を取り入れることで1,2階に入っているFUGLENとも一体感が生まれています。 ノルウェーのヴィンテージ品から漂う懐かしさは、浅草の仲見世を通り抜けるときの懐かしさにも通じるものがあります。

 

カプセルは生活に密着したプロダクトを多く手掛けるプロダクトデザイナー・柴田文江による、ナインアワーズだけのオリジナルプロダクトです。まるで生き物のようにつるんとしたデザインは内側に角がない分、閉塞感がありません。製造効率を考えると四角形の箱型にすべきなのでしょうが、使い心地を追求した結果、この形に着地したといいます。睡眠・休息のためだけに考え抜かれた独特なカプセルは、今やナインアワーズを象徴するアイコンとも言えるでしょう。

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置かれているものにも理由がある、心地良い空間づくりへのこだわり

清潔感のあるオフホワイトで統一されたシャワールーム。備え付けのシャンプー類は東京の老舗・玉の肌石鹸のリキッドソープシリーズです。冬はいちじく、夏はミントの香りがほのかに香ります。気に入った方はミニボトルを購入可能。東京の思い出に東京の石鹸を持ち帰るというのはとても良い旅の体験だと思いませんか?館内着、タオル、歯ブラシなどアメニティは一式完備されているので、手ぶらで訪れても安心です。

また、女性用シャワーにはTOTOのウォームピラーが設置されています。ウォームピラーは柱状のお湯が放熱を抑え身体を包むように流れる新感覚のシャワーです。シャワーでありながらお風呂に浸かったような温熱効果と充足感を得られるので、疲れた身体を癒やしてくれることでしょう。

ラウンジやデスクに配置されたインテリアは池尻にあるセレクトショップ・SEMPREのセレクト。北欧のインテリアを得意とするSEMPREが選んだ品々はシンプルな景観に映え、FUGLENともリンクするようなアイテムばかりで、建物に命を吹き込むようです。

カプセルに置かれた枕は寝返りを打っても落ちないまくらのキタムラ、電源が要らないランニングマシンはメジャーリーガーも愛用する一級品……置かれている設備のひとつひとつに理由があります。すべては心地良い空間をつくり、快適に過ごしてもらうために。そう願う細やかな心遣いは、一流ホテルにも遜色ありません。

 

浅草とノルウェーの共通点とは?東京で2軒目のFUGLENが誕生

浅草にナインアワーズをオープンするにあたり、階下に迎える飲食のパートナーを検討する中で白羽の矢を立てたのがノルウェー発祥、東京の西側・富ヶ谷にあるコーヒーロースター・FUGLENでした。コーヒーを中心に据えつつ、富ヶ谷・FUGLEN TOKYOには用意がないノルウェーワッフルなどのフードも楽しめるFUGLEN ASAKUSA。特に日暮里のVANER(ヴァーネル)が毎朝届けてくれる焼きたてのパンはどれも好評で、カルダモンロールは北欧帰りの方を虜にする本場の味。スパイスの華やかな香りがやみつきになります。

 

店内にはノルウェーのヴィンテージ家具が随所に並びますが、北欧のインテリアと聞いてノルウェーを連想する人は多くないかもしれません。森林の豊かな北欧では昔からものづくりが盛んでしたが、1970〜80年代にかけて北海油田が掘り起こされたことで、油田に近かったノルウェーでは多くの人が石油産業に流れてしまい、ものづくり産業が衰退したという背景があります。FUGLENはそんなノルウェーの文化と歴史を掘り起こし、系統立てて世界に広めた第一人者としての側面も持っています。

壁を覆うノルウェーのわら敷きはまるで日本のござのようですし、手すりには浅草からほど近い蔵前の革職人によるなめし革が巻かれています。下町の職人文化も肌で感じられる浅草にノルウェーの文化を愛するFUGLENが出店したのは必然だったのかもしれません。

平日の朝は海外からの観光客で満席になることもしばしば。周りのホテルに宿泊している方も多く利用されているようです。和食は外で好きなものを食べに出かける人も多いですが、朝はなじみある食事でコンディションを整えたいものです。誰もが広いフロアで思い思いの時を過ごしている中、私もコーヒーを頼んで椅子に深く腰を下ろしたくなりました。

 

 

建築家とともに生み出す、これからのトランジットサービス

今後もナインアワーズは全国各地にカプセルホテルを展開していきます。これまではナインアワーズ専用にビルを建てるところから始めていましたが、カプセルは本来最小単位のプライベートスペースとして発明されたもの。商業施設の中や地下街など、都市の隙間にするりと入り込める強みを活かした展開が予定されているようです。

限られた空間にどんな動線を設けると、どんな使い方ができるのか?そこには今を生きる第一線の建築家とのコラボレーションが輝いています。自然光の入る風通しの良い空間を得意とする建築家、骨格の設計だけでなく内装のデザインに力を発揮する建築家、光の入りにくい空間に温かみや柔らかさをもたらす建築家。ロケーションやその立地に求められる命題に対して最適解をともに見出す姿勢が、その土地だからこそ必要な空間としてのナインアワーズを作り出しています。

各地のナインアワーズは独自のスマートフォンアプリを通して連携しています。スマートチェックインやカードキーとしても機能するこのアプリは、他のナインアワーズの予約もスムーズ。早朝や深夜の飛行機にあわせて成田や蒲田のナインアワーズで仮眠をとったり、竹橋のランステーションを利用して旅先でのランニングを楽しんだりすることもできます。

ナインアワーズの専用アプリ。チェックインから宿泊中、ドアの開閉までできる。

 

「カプセルホテルではなくトランジットサービスを目指しているんです」と彼らは語ります。ひとつの場所に留まることなく日本中、世界中を飛び回りながら働き暮らす人々が増えている今、そのトランジットとしての滞在施設・滞在体験はより身近で重要なものになっていくはずです。快適な休息、快適な睡眠をとって再び飛び立つために、ナインアワーズの活動範囲は今後もますます広がっていくでしょう。

執筆:吉澤瑠美 / 撮影:林ユバ / 編集:柿内奈緒美

[店舗情報]

ナインアワーズ浅草

所在地 〒111-0032 東京都台東区浅草2-6-15
電話 03-5830-0057
  チェックイン 13:00 / チェックアウト 10:00
アクセス 東京メトロ浅草駅より徒歩8分/つくばエクスプレス浅草駅より徒歩2分
公式サイト https://ninehours.co.jp/asakusa/

FUGLEN ASAKUSA

営業時間

日・月・火: 07:00-22:00

水・木: 07:00-01:00

金・土: 07:00-02:00

公式サイト http://fuglen.com/

 

[PHOTO GALLERY]

ラウンジには飲食物の持ち込みも可能。浅草の景色を見下ろしながらゆったりとした時間を過ごすのも小さな贅沢。

 

各所のサインを担当するのは廣村正彰。英語圏外からのゲストも直感的に分かるよう、シンプルで明解なサインが採用されている。

 

「テイスティングフライト」はエスプレッソ、エアロプレス、本日のコーヒーの飲み比べセット。抽出方法の違いや豆の違いによる味の広がりを一度に楽しめる。
Rumi Yoshizawa
Rumi Yoshizawa
ライター
1984年生まれ、千葉県香取市出身の末っ子長女。 千葉大学を卒業後、株式会社ロフトワーク、株式会社イールーを経て2018年1月より独立。執筆編集を看板に掲げ、インタビュー記事と文字校正を中心に取り組んでいる。人の話を聞くこと、字を書くことが好き。あだ名は「おちけん」。