公園にふらりと散歩に行ったら、個性的なアートブックが並んでいる——。
そんなコンセプトのイベント「TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition」が東京・銀座で開催されている。



「TOKYO ART BOOK FAIR」は、2009年にはじまったアート出版に特化した本の祭典。今回の「Ginza Edition」は、7月に開催される第10回目のプレイベントとして、3月8日(金)〜4月14日(日)の期間に、合計150組以上の出版社、ギャラリー、アーティストたちがアートブックを展示・販売する。そのほか、アートブック販売機の設置や、本づくりのプロセスを体験できるワークショップといった多彩なイベントも開催されている。

会場は2018年8月にオープンしたGinza Sony Park。「変わり続ける公園」をコンセプトに、驚きや遊び心を感じられる体験型イベントなどのプログラムを実施している施設だ。今回の「TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition」は、そんなユニークな会場を生かして、「公園」をコンセプトに掲げている。

今回の「TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition」の空間デザインを手がけた西尾健史さん。
フェア全体の空間デザインを手がけたのは、空間デザイナーの西尾健史さん。前回(2017年)から「TOKYO ART BOOK FAIR」の場づくりに携わっている。西尾さんに、会場の中を案内してもらいながら、フェアの魅力や空間へのこだわりを聞いた。
自由に散歩をして、ZINEと出会う

地下4階まであるGinza Sony Park。主な会場は地下2階と地下3階だ。まず、地下2階に入ると見えてくるのが、「ZINE’S MATE SHOP」。国内外の個性的なアートブックやZINEが展示・販売されている。
並んでいるのは、公募の中から「TOKYO ART BOOK FAIR」がセレクトした本。まだ知られていない「新たな才能との出会いの場」を提供するとのことだ。
「ZINE’S MATE SHOP」の空間は、地上階から続く「公園」を意識したデザイン。本が置かれているテーブルは、木のベンチをイメージしてあり、脚は土管のようにする工夫まで。スペースの中央に位置する丸いテーブルはみんなが集まる「砂場」をイメージしたそうだ。
「テーブルは丸みのあるデザインを意識しました。そうすると、人が滞留せずに、動きが出てきます。公園は自由に散歩できるのが魅力です。展示のルートは決まっていないので、自由にぐるぐると思いのままに見てまわってもらいたいです」(西尾さん)
平日は「アートブックの販売機」が出現!?

地下2階の奥に位置するのは、Art Book Vending Machine(アートブック販売機)。週末は出展者がここでブースを出しているが、平日はアートブックの販売機が登場する。
ストックされているのは、約1500冊を超えるアートブック。ブース出展者から「出展料」として10冊ずつ集めたそう。本との「偶然の出会い」を体験できる展示だ。
料金は1回500円。持参したアートブック1冊でも交換可能だ。受付でイラストや写真といったジャンルのキーワードを選び、投入口にコインを入れると、それにひもづく1冊が受け取り口から出てくる仕組みになっている。本が落ちてくるときの「効果音」も注目してほしいとのこと。
西尾さんにたくさんのアートブックのなかから、特にオススメの本を2冊選んでもらった。1冊目は『歯のマンガ』(カトちゃんの花嫁作)。
「歯が主人公の漫画なんですよ。めっちゃかわいくて超癒しです。スタッフの間で人気で『おもしろいよ』と教えてもらったんです」(西尾さん)

もう1冊は、フットボールカルチャーマガジン「SHUKYU」。

「これはサッカーをファッションフォト、グラフィックなどの多角的な視点から捉えています。毎回フィーチャーする国を変えている。最新号のロシア特集を置いています」(西尾さん)
地下2階「EXHIBITIONS」のコーナーでは、国内外の作家による展覧会が週替わりで開催。取材日は写真家・ホンマタカシさんのエド・ルシェのアーティストブックに対するオマージュシリーズ『Every Building on the Ginza Street』の展示がされていた。
アーティストの本棚を覗いてみる。
階段を降りて、地下3階のスペースへ。
「ここには、フードトラックと《EXHIBITIONS》に参加しているアーティストの「ライブラリー」があり、アーティストの作品や作品に関連する本などが展示してます。《EXHIBITIONS》が週替わりなので、既に展示が終わった作品の一部もここで見れるようにしています。大きな本を開いたまま、並べているイメージをデザインして壁を立てています。」(西尾さん)
「デザインは贈り物」その関係性が「日々」続いていく。
公園、アートブック販売機、ライブラリー…。アートブックとの出会いが、色々なかたちで演出されている「TOKYO ART BOOK FAIR」。
展示を一周したあと、西尾さんにイベントの魅力や空間デザインについて、お話してもらった。

——「TOKYO ART BOOK FAIR」の魅力とは?
リアルな場で出展者や来場者の熱意を感じられることですね。「こんなに自分と同じようにアートブックが好きな人がいるんだ!」と。作品だけしか知らなかった作家さんでも、実際に出会ってみると新しいことが発見できたりします。話をすることで、もっと作品が好きになる。自分も作ってみようかなと思える。そんな思いが、ふつふつと沸き起こる感覚が凄くいいと思います。
——「アートブック」のおもしろさとは?
本を実際に手に取ってみると、ウェブでコンテンツを読むのとは全然違う感覚があると思います。本のデザインにこだわりがあったり、インクの匂いがあったり…。「こんなに分厚い本で、こういう風にめくるんだ」といった驚きもある。出展者の皆さんは、細部まですごく考えて作られています。本に触れることで、そのデザインを体験してみてほしいですね。

——今回の空間デザインで、特にこだわった点は?
あくまで主役は本なので、あまり主張しないデザインを心がけたいと思っていますが、今回はGinza Sony Parkの「公園」のコンセプトに合うように、公園の魅力である自由で楽しく、どんな道筋で移動してもいい大らかな場所を意識しました。いろんなコンテンツがある中で、どこを目当てに来たとしても、次のコンテンツへ自然に繋がっていくよう、散歩する様に全部を楽しんでもらえたら嬉しいです。
通常の本屋さんでは出来ないような、本を楽しめる空間が出来たと思っています。

——デザインをする上で、いつも大事にしていることはありますか?
僕は「DAYS.」というデザイン事務所をやっているんですが、ある期限が来て終わりじゃなくて、できればその関係性が自分にとっても「日々」きちんと続いていくようなデザインにしたいと思っています。ちょっとした遊び心を持って、長くいろいろな使い方ができるよう工夫しています。
デザインに触れることで、「その人がどのように感じてもらえるか」を考えたいです。僕にとってデザインは気持ちを込めた贈り物みたいなもので、その人やもの、空間に対しての気持ちが、さりげなく伝わると嬉しいなと思います。
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アートブックを手に取るのに最適な空間のデザイン。そんな「コンテンツ」を生かすための場づくりは、アートブックをつくる作業に似ているのかもしれない。展示・販売されていた本は、内容だけでなく、紙の材質や大きさ、綴じ方などのディテールにも、作り手の強い思いが詰まっているように感じた。
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執筆:篠原諄也/撮影:林ユバ/編集:柿内奈緒美

西尾健史/ DAYS.
1983 年長崎県生まれ。
桑沢デザイン研究所卒業後、設計事務所を経て、「DAYS.」として独立。 机と作業場を行き来しながら様々な空間やプロダクトのデザイン、及びプライベートプロジェクトも積極的に展開している。
TOKYO ART BOOK FAIR: Ginza Edition 開催概要
開催期間 | 2019年3月8日(金)~4月14日(日) |
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開催時間 | 10:00~20:00 |
会場 | Ginza Sony Park地下2階~3階 |
入場料 | 無料 |
主催 | TOKYO ART BOOK FAIR / Ginza Sony Park |
Webサイト | https://tokyoartbookfair.com/ginzasonypark/ |
——ILUCA編集部では、「心の波紋」を探るための「ILUCA カード」を皆さんにうかがってます。西尾さんの「ILUCA カード」はこちら。
「MUSIC」
つい数日前に、この地下でBuffalo Daughterがライブをやったんですよ。ここ数年は聴いてませんでしたが、高校生の頃から、凄く好きなバンドでした。ライブでは当時好きだったアルバムを再現して、演奏していました。20年近く経って、高校の頃に好きだったバンドとまた繋がることができたのって、すごくいいなと思いました。体が音を覚えているような感覚がありました。いまでも、高校の頃に好きだった音楽を聴くと、頑張れることがある。仕事でそういう音楽と接点があると、仕事を続けててよかったなと思います。
「PLACE」
最近、仕事で月に2、3回は福岡に行っているんです。地元が九州ということもあるのですが、だんだん街のこともわかってきて、顔なじみも増えてきました。コーヒー屋さんに行っても、知人がいて話をしたり。半分住んでいるような感覚になってきます。
福岡は街の距離感がすごく好きで、東京だとできないような尖っているお店も多いですし、少し離れた大川市という家具の産地では、職人さんと一緒に物作りをしています。その行き来する感覚がすごく面白いですね。僕自身も、今後もいくつか拠点を持ちながら仕事を出来たらと思っています。
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