約3年の時を経てリニューアル・オープン! より開かれた美術館へ「東京都現代美術館」

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東京都江東区、自然豊かな公園や街並みに江戸の風情を残しながらも、おしゃれな珈琲屋さんや雑貨屋さんが集まる街「清澄白河」。この場所に、コンテンポラリー・アートを肌で感じることができる美術館「東京都現代美術館」があります。

1995年の開館から約20年、諸設備の改修と利便性の向上のためにおよそ3年にわたる休館を経て、2019年3月29日にリニューアル・オープンしました。

「より開かれた美術館を目指した」という今回のリニューアルでは、どのような変化があったのでしょうか。

公園と美術館を繋ぐインターフェイス

入館してまず目を留めるのは、リニューアル以前にはなかった木やコルクを使ったベンチ・看板。今回、館内外のサインなどの什器をリニューアルしています。担当したのはスキーマ建築計画 建築家の長坂常(ながさか・じょう)さんと、日本デザインセンター アートディレクターの色部義昭(いろべ・よしあき)さん。

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重厚な建物の東京都現代美術館に、木材やコルクなどの素材を使った什器を設置した理由を、「複数の人が関与することを許される隙を作る」と語っています。美術館という一見近寄りがたい場所に、「やんちゃな素材を使った」というお2人のインタビューは、同じ館内『ホワイエ』というスペースで上映されています。

これらのベンチやサインは、誰もが入れるパブリックスペースにも多く配置されています。

木場公園に隣接するという立地から、展示を目的としていない人にも気軽に美術館に入ってもらえる仕掛けを設け、美術館との距離感を近くすることを目的としています。

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公園の入り口からすぐ、美術館の地下に潜るように進むと中庭まで出ることができます。

そこからミュージアムショップ「NADiff contemporary(ナディッフ コンテンポラリィ)」の入り口を新設し入館することが可能になりました。また、同じ中庭から螺旋階段を登れば、カフェ&ラウンジまで入ることができるようになっており、パブリックスペースと美術館内の境目がいい意味で曖昧な設計になっています。

スマイルズが手がけるレストランや新業態のサンドイッチ店など家族で楽しめる空間に

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「絵になる席」食卓の上に鏡の額縁があり、食事をしている自身が絵画の一部のように写る。スマートフォンを食卓に置いて簡単に撮影可能。©️ スマイルズ

地下1階のレストランは『100本のスプーン』、2階のカフェ&ラウンジは新業態となる『二階のサンドイッチ』と、共にスープ専門店『Soup Stock Tokyo』などを手掛ける『スマイルズ』が出店。決して「子ども向け」というわけではなく、大人でも十分に飲食を楽しめるお店が入りました。

地下1階にありながら外光が多く差し込む『100本のスプーン』では、特に、メニューの塗り絵やウェイティングエリアの積み木、参加型の彫刻作品など、遊びをきっかけにアートに興味を持ってもらう入り口となるような場所を目指しています。

100本のスプーン料理メニューのひとつ。
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名前の通り、2階に上がったところにある『二階のサンドイッチ』では、定番と日替わりで数種類のサンドイッチが販売されています。

お店のコンセプトを表した一文「サンドイッチは額縁のような。」が印象的で、その意味についてこう書かれています。

サンドイッチは額縁のような。

額縁は発明だ。

かつてアートは豪華な館の壁や天井に描かれ、

一部の人にだけに許された特別なたしなみであった。

額縁の誕生により、アートは固定された場から解放され、

移動可能なものとなり、誰しもに享受され、それは文化となった。

サンドイッチもまた発明である。

お気に入りの具材や料理を挟み込むことで、

レストランとそのお皿に閉じこもっていた料理たちを手の中に携え、

自由に持ち運び、思い思いの場所で食す。

サンドイッチは食における額縁とアートの関係に似ている。

(サイト:http://www.smiles.co.jp/upstairs/より抜粋)

例えば、鯖のソテーにチリソースや香草をあわせた一皿など、シェフが考案したこだわりの料理たちをパンに挟んでいます。また、自家製カスタードと季節のフルーツを合わせたサンドイッチなど、お食事系サンドイッチからデザートサンドイッチまでご用意。アートを鑑賞した後に、ゆっくり1人で、もしくは複数名で感想を持ち寄って。ここで時間を過ごしてみたり、美術館の外に感性を持ち帰ってみるのも良さそうです。

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今回のリニューアルで、子どもと一緒に入りやすくなった印象を強く持ちました。

展示室内のエレベーター増設、多目的トイレの拡充によりバリアフリー向上、ベビーカーの貸出など子育て支援設備充実ました

新設された「こどもとしょしつ」。

地下にある美術図書は、美術関連図書資料総数27万冊を所蔵し、美術に関する専門図書としては国内でも有数の美術図書室となっています。今回のリニューアルではさらに、子ども向けの図書を集めた『こどもとしょしつ』を新設しています。

東京都現代美術館全館を使った、約5400点収蔵作品からなる展示構成

「開かれた美術館」のテーマのもと、今回のリニューアルで様々な取り組みを行なった東京都現代美術館。親しみやすさを感じながらも、リニューアルオープンを記念して企画展示室とコレクション展示室において、2つの展覧会を企画し、美術館全館で大規模にコレクションを展しています。

大正末年より同時代美術の展示を行ってきた、上野の東京都美術館の収蔵作品およそ3000点を今回の開館を機に移管し、現在に至るまでの間に収集された2400点あまりを合わせた、計約5400点もの作品で構成されています。

<企画展:百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術->

百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-展示風景 手前が有島生馬《鬼》1914
手前:靉嘔《田園》1956  奥:瑛九≪カオス≫1957
森村泰昌《肖像(少年 1、2、3)》1988

1910年代から現在までの百年にわたる日本の美術について、新旧の表現を捉えて独自の創作を展開した作家たちの実践として当館のコレクションを核に再考したものです。企画展示室3フロア全てを使って、実験精神あふれる作品の数々を、現在の創造に繋がる視点で紹介する、初めての機会です。

選りすぐりの作品だけでなく、美術図書室の創作版画誌や特別文庫など戦前からの貴重な資料を紹介しています。

<コレクション展:MOT コレクション ただいま / はじめまして>

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今回のコレクション展では、3年弱に及ぶ休館中に新たに収蔵された、約400点の作品を中心に、主に2010年代に制作された作品群に焦点を当てながら、修復を終えた作品もあわせて展示されています。これまで『MOT コレクション』を見た方も、今回初めて見る方も、リニューアルした展示室で作品それぞれの魅力に触れることができます。

今回の展示全体については、「それぞれの時代における突出した独自の創造に着目し、全館での展示をとおして再考することは、常に同時代の創造活動と向き合ってきた東京都現代美術館の意味をひろく問う、たいせつな試みである」とその特質が紹介されています。

リニューアル・オープン記念展は2019年6月16日(日)まで開催中

街に溶け込み、子どもから大人まで思い思いの時間を過ごせる場所。

ひとりでも複数人でも、その場にいることを受け止めてくれる公園のような美術館

久しぶりに訪れてみて、そんな印象を受けました。次のおやすみの日に、街を自由気ままに散歩しながら、3年ぶりの東京都現代美術館に迷いこんではいかがでしょうか。

 

執筆:関口智子/撮影:林ユバ・柿内奈緒美(クレジットがあるものを除く)/編集:柿内奈緒美・倉持裕太

 

リニューアル・オープン記念展
企画展「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」

会期 2019年3月29日~6月16日
会場 東京都現代美術館
住所 東京都江東区三好4-1-1
電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間 10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日 月(4月29日、5月6日は開館)、5月7日
料金 一般1300円 / 大学生・専門学校生・65歳以上900円 / 中高生600円 / 小学生以下無料
※企画展のチケットでコレクション展もご覧いただけます。

リニューアル・オープン記念展
コレクション展「MOTコレクション ただいま / はじめまして

会期 2019年3月29日~6月16日
会場 東京都現代美術館
住所 東京都江東区三好4-1-1
電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間 10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日 月(4月29日、5月6日は開館)、5月7日
料金 一般500円 / 大学生・専門学校生400円 / 高校生・65歳以上250円 / 中学生以下無料

 

Tomoko Sekiguchi
Tomoko Sekiguchi
ライター
通信キャリアの営業部に勤めながら専門学校でグラフィックデザインを学び、その後広い意味のデザインを身につける為にクリエィティブエージェンシーへ転職。4年間ディレクターとしてプロジェクトマネジメントを経験し、現在フリーランスで表現者の発信をサポート。趣味は未経験で始めたジャズピアノ。